三宅香帆『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』

日記

人前に立つことが比較的多い私にとって「話が面白い」ことは、言うまでもなく重要です。とりわけ合奏では、3〜6時間くらい話しつづけることになるわけですから。

話が面白くなる←鑑賞力を高める←批評の技術、というのが本書の主たる軸です。この批評的な読みの部分が、意外にもスコアリーディング、とりわけStory telling の部分と本質が似通ってることに気付かされました。

標題音楽・絶対音楽を問わず、story telling 的なものは、プレイヤーのイメージを広げたり統一したりする上でとても重要です。そのためには、読みの補助線を引く必要があるわけですが、でも、あくまで音楽/テクストが中心にあるべきです(児童・生徒が音楽にストーリーを考えさせる際に、往々にしていつのまにかストーリー中心になりすぎて、音楽そのものと乖離してしまいがち)。
本書で紹介された多くの実例からは、テキストに寄り添いながらも、読者に新たな視点を与える方法を的確かつ鮮やかに見せてくれました。

その際に必要なのは幅広い教養であることも改めて実感。断片的な“情報”のつまみ食いではない、“ノイズ”を伴う読書=知識の獲得が大事だという、著者の軸となっている思想が本書からも感じられます。

この読書のノイズは、東浩紀さんのいうところの“誤配”にも通じるところがあるなと。さらにはステージ上でのパフォーマンスというものを鑑みたときには、この“誤配”にも大きな意味が存するのではないか、ということにまで考えが膨らみました。

元は、人前(特に合奏)での話が少しでも面白くなればというところからスタートしたはずが、譜読みやステージ演奏の本質にまで考えを巡らすに至った、予想以上に深い読書体験となった1冊でした。

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